1 はじめに
平成30年12月8日,第197回国会(臨時会)において「出入国管理及び難民認定法及び法務省設置法の一部を改正する法律」(在留資格「特定技能」の創設等)が成立し,同月14日に公布されました。少子化が進む中,外国人の受入に関する政策については,今後も目を離せません。
出入国管理及び難民認定法(以下,「入管法」といいます。)では,外国人が,我が国に入国・在留して従事することができる社会活動,在留することができる身分・地位を類型化して在留資格として定めており,そのいずれかに該当していなければ我が国への入国及び在留は認められていません。また,外国人が適法に日本国内に在留し,活動できるのは,入国審査の際にパスポートに記載された「在留資格」と「在留期間」の範囲内のみということになります。
したがって,日本国内で過ごしている外国人全員が当然に就労できるわけではないため,事業主の方は,外国人の方を雇い入れる際には,外国人の方の「在留カード」等により,就労が認められるかどうかを確認する必要があります。
皆様の会社では,外国人の在留資格について,十分に理解し,必要な対策を講じているでしょうか。
2 出入国及び難民管理認定法と在留資格
外国人が,日本に入国する際には,入管法に基づき,「在留資格」が定められます。日本人を雇用する場合と大きく異なるのは,外国人の場合は「在留資格」ごとに就労できる業務の種類が異なるという点にあります。なお,海外に滞在している外国人をこれから雇用することを予定している場合は,「在留資格認定証明書」の取得を申請して,あらかじめ在留資格の取得を準備したうえで,当該外国人を招聘する方法で行われています。
就労させる際に取得されている在留資格は,「技術・人文科学・国際業務」が多く用いられていますが,その他には,「法律・会計業務」「医療」「技能」「興行」などが挙げられます。各在留資格で就労することができる典型的な業務の種類は,以下の表のとおりです。例えば,「短期滞在」「留学」「研修」などの資格において日本に滞在している外国人は,「資格外活動許可」を得ていない限りは,アルバイトを行わせることすらできません。
なお,例外的に,「永住者」「日本人の配偶者等」「永住者の配偶者等」「定住者」といった在留資格を有している場合は,就労に制限がありませんので,雇用することができます。 就労することができない在留資格で就労させていたり,在留資格において就労可能とされている職種以外の業務を行わせていたりした場合は,「不法就労」となります。
在留資格とあわせて気をつけなければならないのが,これらの在留資格には,期限が定まっているということです。在留期間と呼ばれますが,外国人ごとにこの在留期間が異なり,在留期間を超過して日本に滞在することは「オーバーステイ」や「不法滞在」と呼ばれます。不法滞在中は,在留資格を有していないということになりますので,この場合も就労させることができないということになります。
したがって,外国人の雇用を行う場合には,「不法就労」と「不法滞在」を助長しないように留意しなければなりません。これらの「不法就労」や「不法滞在」を助長した事業主は,不法就労助長罪(入管法第73条の2第1項違反)となり,3年以下の懲役又は300万円以下の罰金に処せられる可能性があります。
3 外国人への労働関係法規の適用関係及び雇用対策法に基づく届出等
日本国内で就労する外国人労働者に対しては,国籍のみを理由として労働条件について差別的取扱いをすることは許されていません(労働基準法第3条)。
さらに,外国人を雇用する場合にも,労働条件通知書の交付は必要となりますし(労働基準法第15条),社会保険及び労働保険への加入についても日本人と同様に加入する義務があります。そして,外国人の雇用については,雇用対策法及び同法施行規則並びに「外国人の雇用管理の改善等に関して事業主が適切に対処するための指針(以下「外国人雇用指針」といいます。)」が定められています。
外国人を雇い入れた場合又は外国人が離職した場合には,ハローワークを通じて厚生労働大臣へ届出を行わなければならず(雇用対策法第28条),届出の懈怠や虚偽記載を行った場合は,30万円以下の罰金に処される可能性があります。
届出事項は,労働保険の被保険者資格を有している場合は当該資格の取得届や喪失届を提出することで十分ですが,そうではない場合は所定の届出書に必要事項を記載して提出する必要があります。
さらに,外国人雇用指針は,日本人であれば当たり前と思われている点に対しても,外国人への説明を尽くすよう求めています。例えば,税金,労働・社会保険料等の賃金からの一部控除の取り扱いや,労働・社会保険による保険給付の請求手続等について,外国人労働者が理解できるように説明し,実際に支給する額が明らかになるよう努めることとされています。
4 雇用の際の留意点とチェックポイント
外国人を雇用するためには,「不法就労」や「不法滞在」を助長しないように,雇用の際に「在留資格」及び「在留期間」を確認することは必須です。雇用対策法に基づく届出義務を果たす過程で,しっかりと確認を進めていく必要があります。 一般的には,「在留資格」や「在留期間」は,日本へ入国し,就労を希望する外国人が保有している「在留カード」で確認することができます。また,外国人が不法に入国していないことを確認するためには,パスポートもあわせて確認し,在留カードの記載と齟齬がないか確認すべきでしょう。パスポートや在留カードを確認することで,雇用対策法に基づく届出書の記載事項も確認することができます。
さらに,在留資格のうち「技術・人文科学・国際業務」などは,対応可能な業務は広範ですが,入国した外国人が大学で専攻した科目等との関連性がなければならないとされています。そのため,同じように「技術・人文科学・国際業務」を有している外国人がいたとしても,大学の専攻科目等が異なったりすると就労できる業務が異なる場合があります。そこで,就労させようとしている業務と在留資格の適合性を確認するための書類として,「就労資格証明書」を取得することで確認することができます。
弁護士法人J&Tパートナーズ
弁護士 李 卓奎(イ タッギュ)